「何もない」は、ほんとうに何もないのでしょうか
星景写真を撮るとき、私がまず探すのは、光害の少ない場所です。きれいな星空に出会うには、都市の明かりから離れていくしかないのですね。
都市というと、東京や大阪のような大都市を思い浮かべる方が多いと思います。でも実際には、前橋や甲府といった地方都市の明かりでも、空はずいぶん明るくなってしまうのです。
先日、ブログに「長岡の光害で空が明るくて」と書いたところ、「長岡でも影響あるんですか?」という質問をいただきました。それどころか、もっと人口の少ない秩父あたりでも、空への影響は出てくるのです。
ですから、星のきれいな場所を求めていくと、たどり着くのは決まって「基本、何にもない場所」なのですね。
地元の方と話をすると、たいてい「こんなところに来ても何もないよ」と言われます。でも私たちから見ると、そこにはとんでもない価値があるのです。同じ場所を見ているのに、見えているものがまるで違う。この差を、いつも強く感じます。
私たちは、その「何もない場所」に、3時間も4時間もかけて、わざわざ出かけていくわけです。それだけの価値があるからですね。
これは、はたして星空だけの話なのでしょうか。
地方の町に大きな遊戯施設ができたり、その土地に似合わない豪華な建物ができたりするのを見ると、「これって、ここに作る必要あるのかな?」と思ってしまうことがあります。よそから持ってきたものを置くよりも、そこにしかない風景や星空や花を、わざわざ見に来てくれる人がいる。その価値を活かす何かをやったほうがいいのではないか、と思うのです。
「日本一の星空」が教えてくれること
星空を「価値」として活かした町といえば、まず思い浮かぶのが長野県の阿智村です。
阿智村は2006年、環境省主催の「全国星空継続観察」で、夜空の明るさが星の観測に適していた場所において、観測した参加団体416団体のうちの最高点となったことから、「日本一の星空」として知られるようになった場所です。
私が「星空写真を撮っています」と言うと、「それなら阿智村に行かれるんですよね?」と言われるくらい、浸透しているのです。それだけ阿智村の試みは、称賛に値すると思います。
かつては南信州の山あいの、地元の方にとっては「何もない」場所だったはずです。それが今では、夜のツアーにたくさんの人が訪れる場所になりました。何かを新しく建てたわけではないのですね。もともとそこにあった暗闇と星を、見せ方を整えて、しっかり伝えただけなのです。
山に生えている、ただの葉っぱ
これは星だけの話ではありません。
徳島県の上勝町は、四国でいちばん小さな、人口1500人ほどの町です。その半数以上が高齢者という、いわゆる「何もない過疎の町」でした。
ここで生まれたのが、有名な「葉っぱビジネス」です。もともとは林業とみかんの町だったのですが、1981年の異常寒波でみかんが壊滅してしまい、町は窮地に立たされました。そんなとき、当時農協にいた横石知二さんが、料理に彩りを添える「つまもの」お刺身やお皿に添えてある、あの葉っぱや花に目をつけたのです。
おもしろいのは、ここからです。最初、町のお年寄りたちは「山に生えているただの葉っぱが、お金になるはずがない」と、半信半疑だったそうです。地元の方にとっては、裏山にいくらでもある、なんの価値もないものだったのですね。
ところが、それが今では約320種類、年間の売上はおよそ2億円。なかには、年に1000万円を売り上げるおばあちゃんもいるというのですから、驚きます。
「何もない山」が、見方を変えたら宝の山だった。私の「何もない場所」の話と、まったく同じ構図だと思いませんか。
岐阜県の白川郷も同じです。雪深い山あいの集落で、豪雪は暮らしの厄介ごとでしかなかったはずなのに、今では世界じゅうから人が訪れます。地元の方には当たり前すぎる風景が、遠くから来た人には「寓話の世界」に見えたのですね。
価値にに気づくのは、「外の目」
上勝町の葉っぱは、横石さんという「料理の世界を知っている目」があったから、価値が見えました。白川郷も、外から来た人の「これはすごい」という声が、地元の見方を少しずつ変えていきました。
考えてみると、価値に気づくというのは、ぼんやり眺めて見つかるものではないのかもしれません。「これを必要としている世界」を知っている人が見たときに、はじめて立ち上がるものなのですね。私が暗い夜空に価値を感じるのも、星を撮るというものさしを持っているからです。
だとすれば、「よそから来た人が、何に驚いたか」にヒントがあるのかもしれませんね。星を撮りながらいろんな場所に行きますが、それぞれ特徴がある素晴らしいところが多いです。
あなたが毎日見ている「何もない景色」も、もしかしたら誰かにとっては、わざわざ何時間もかけて見に来たいものなのかもしれません。


「何もない」まさに今から旅立つところです。
旅先の何かを探していたことに気が付きました。
何にもないと思ってたらもったいないですね✨ありがとうございます✨